解決事例|外国籍の配偶者の相続
「お前は本当の母じゃない」
それでも、妻の権利は法律が守ります。
日本人の夫を亡くした、中国籍の妻。 夫の子どもたちは彼女を母と認めず、介護にも関わってこなかったのに、 「外国人に財産は渡せない」と主張しました。住み慣れた家からも出るように迫られました。 このご相談が、どう解決したのかをご紹介します。
ご相談をいただいたときの状況
- 夫が亡くなり、妻は中国籍のまま日本に居住
- 夫には、前の結婚で生まれた子が複数いた
- 子どもたちは長年、父とほとんど関わっていなかった
- 介護と看取りは、妻がひとりで担った
- 子から「外国人に相続権はない」と言われた
- 「家を明け渡してほしい」と迫られていた
- 日本語での書面のやり取りに不安があった
- 在留資格が「日本人の配偶者等」のままだった
相談にいらしたとき、すでにご本人は諦めかけていました。
まず、大きな誤解がありました
子どもたちの主張には、法律上まったく根拠のないものが含まれていました。ご本人も、そう言われて信じてしまっていたのです。
「外国人だから」という主張は、多くの場合その方の思い込みです。ただ、言われた側は日本の法律に不案内なため、そのまま信じてしまいます。私たちがまず行ったのは、法律上どうなっているのかを、中国語で正確にお伝えすることでした。ご本人が自分の立場を理解された時点で、話の前提が変わりました。
解決すべき課題は、3つありました
相続の問題だけではありません。放っておくと、日本に住み続けること自体が難しくなる状況でした。
1|住まいをどう確保するか
自宅は夫の名義でした。売却して分けることになれば、住む場所を失います。配偶者居住権を設定できれば、所有権は子が取得しても、妻は生涯そこに住み続けられます。ただしこの権利は、遺産分割協議での合意、遺贈、または家庭裁判所の審判によらなければ取得できません。
2|介護の貢献をどう扱うか
妻は数年にわたり、ひとりで夫の介護と看取りを担っていました。一方、子どもたちは関わっていません。この差を、法律上どう主張できるのか。寄与分という制度はありますが、認められるハードルは高く、配偶者の場合は「夫婦の協力扶助義務の範囲」とされやすい面があります。
3|在留資格をどうするか
ここが見落とされがちです。「日本人の配偶者等」の在留資格は、配偶者が亡くなった時点で、その根拠を失います。届出を怠り、あるいは変更しないまま一定期間が過ぎると、在留資格の取消しの対象になり得ます。相続の話し合いが長引くほど、この期限が迫ってきます。
そして、言葉の壁
戸籍、遺産分割協議書、印鑑登録証明書、登記事項証明書。日本人でも馴染みのない書類が並びます。内容を理解できないまま署名を求められる状況は、それ自体が危険です。ご本人が納得して判断できる状態をつくることが、すべての出発点でした。
相続よりも先に、在留資格を確認してください
配偶者を亡くされた外国籍の方のご相談で、私たちが最初に確認するのはここです。
配偶者が亡くなると、「日本人の配偶者等」の根拠は失われます
この在留資格は、日本人の配偶者であることを前提としたものです。配偶者が亡くなれば、その前提がなくなります。入管法上、配偶者としての活動を継続して行わない状態が一定期間続くと、在留資格の取消しの対象となり得ます。
また、配偶者が死亡した場合には、その旨を出入国在留管理庁へ届け出る義務があります。悲しみの渦中にある方にとって酷な話ですが、期限のある手続きです。
多くの場合、「定住者」への変更を検討します
日本での婚姻期間、日本人との間の子の有無、生活の基盤、独立して生計を営めるかどうか。こうした事情によっては、「定住者」への在留資格変更が認められる可能性があります。長年日本で生活し、日本人配偶者を看取られた方であれば、事情としては説明しやすい部類です。
ただし、これは自動的に認められるものではなく、資料をそろえて申請する必要があります。相続の話し合いが長引いているうちに期限が来てしまうのが、最も避けたい事態です。相続と在留資格は、並行して進めてください。
相続の専門家と、入管手続きの専門家が別々だと、この視点が抜け落ちます。相続の相談先では在留資格の話が出ず、入管の相談先では相続の話が出ない。その間に期限が過ぎてしまう。当事務所が両方を扱っているのは、こうした事態を防ぐためです。
実際に進めた手順
感情の対立が先に立っている場面では、事実を先に固めることが何より効きます。
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初回
中国語で、法律上の立場をご説明
配偶者は常に相続人であること、国籍は関係ないこと、日本人の夫の相続だから日本法で判断されること。この3点を、通訳を挟まずに直接お伝えしました。ご本人が「自分には権利がある」と理解された時点で、話の進め方が変わりました。
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〜2週目
在留資格の期限を確認し、並行して着手
在留カードの有効期限と、届出の要否を確認。相続の結論を待たずに、在留資格の手続きを進める段取りを組みました。ここを後回しにすると、住む場所以前に日本にいられなくなります。
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〜1か月
戸籍を収集し、相続人を確定
夫の出生から死亡までの戸籍をすべてつなげ、相続人が誰かを紙で確定しました。誰が何人いるのかが客観的に定まると、「話し合いに誰が必要か」が動かせない事実になります。法定相続情報一覧図も取得しました。
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〜2か月
財産を調査し、財産目録を作成
自宅の登記事項証明書、名寄帳、預貯金の残高証明書と取引履歴。全体像を一覧にして、相続人全員が同じ資料を見られる状態をつくりました。「隠しているのではないか」という疑念は、ここでほぼ消えます。
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〜3か月
選択肢を整理し、方針を決定
自宅を売って分ける、代償金を支払って妻が取得する、配偶者居住権を設定する。それぞれの場合に妻の手元に何が残り、どこに住むことになるのかを、金額を入れて比較しました。ご本人が数字を見て選べる状態にすることが目的です。
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〜5か月
合意内容を書面にし、手続きを実行
まとまった内容を遺産分割協議書として作成。相続人全員の署名押印をそろえ、預貯金の解約手続きを進めました。不動産の登記は提携する司法書士へ引き継いでいます。
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結果
住まいと在留資格の両方を確保
ご本人は住み慣れた家に住み続けられることになり、在留資格の問題も解決しました。「もう日本にはいられないと思っていた」というのが、最初にいらしたときのお言葉でした。
行政書士にできること、できないこと
この点は、はっきりお伝えしておく必要があります。
代理での交渉は、弁護士の業務です
相続人の間に争いがある場合、依頼者の代理人として相手方と交渉できるのは弁護士だけです。行政書士がこれを行えば、弁護士法に違反します。「相手と話をつけてほしい」というご依頼は、お受けできません。
当事務所がお手伝いできるのは、相続人の調査、財産の調査、法律上の立場のご説明、選択肢の整理、そして合意ができた内容を書面にすることまでです。相手方との交渉が必要な段階に入った場合は、提携する弁護士をご紹介し、そこから先を引き継ぎます。
それでも、多くの場合は書面が先です
経験上、「争っている」と見える場面の多くは、事実が共有されていないだけです。誰が相続人なのか、財産がいくらあるのか、法律上どうなるのか。これらが紙になって全員の手元に届くと、主張が現実的な線に落ち着くことがよくあります。
今回も、戸籍と財産目録が出そろった段階で、話の温度が変わりました。感情は残っても、法律上動かせないことは動かせません。それが分かると、双方が現実的な着地点を探し始めます。
同じ状況にある方へ
いま、同じことで悩んでいらっしゃる方に、お伝えしたいことがあります。
言われたことを、そのまま信じないでください
「外国人に相続権はない」「中国の法律で決まる」「血がつながっていないのだから」。いずれも法律上の根拠がありません。相手が本気でそう思い込んでいることもありますが、事実は違います。まず正しい情報を得てください。
署名を急がないでください
内容が分からないまま書類に署名し、実印を押してしまうと、あとから取り消すのは非常に困難です。「相続分がないことの証明書」など、権利を手放す趣旨の書面もあります。読めない書類には、署名しないでください。
家からは、すぐに出ないでください
配偶者短期居住権により、遺産分割がまとまるまで(最低6か月間)は無償で住み続けられます。出てしまうと、この保護が使えなくなります。退去を求められても、まず専門家にご確認ください。
在留資格の期限を、先に確認してください
相続よりも期限が短いのは、こちらです。在留カードの有効期限と、届出の要否を今日確認してください。相続の話し合いが長引いているあいだに、日本にいられなくなる事態だけは避けなければなりません。
よくいただくご質問
質問をクリック(タップ)すると、答えが開きます。
外国籍でも、日本の家や預金を相続できますか。
夫は日本人、私は中国籍です。どちらの法律で決まりますか。
「印鑑を押せ」と書類を持ってこられました。
介護をしてきたことは、考慮されますか。
配偶者居住権は、必ず認められますか。
日本語が不安です。通訳を用意する必要がありますか。
相談したことが、相手方に伝わりませんか。
あわせてお読みください
この事例に関係する手続きを、それぞれ詳しく解説しています。
この事例について
掲載にあたり、守秘義務の観点から、ご相談者が特定されないよう内容を変更しています。地域、年齢、家族構成、金額、時期などは実際とは異なり、複数の事案を組み合わせて再構成しています。
結果を保証するものではありません。相続の結論は、ご家族の状況、財産の内容、相続人の意向によって大きく変わります。同じ手順を踏めば同じ結果になる、というものではないことをご了承ください。
相続人の間に争いがある場合、代理人として交渉できるのは弁護士のみです。不動産の名義変更は司法書士、相続税の申告は税理士の分野です。当事務所では提携する専門家をご紹介し、窓口を一本化してお手伝いしています。
記載している制度の内容は2026年7月時点のものです。法令や運用は変わることがありますので、実際のお手続きの際は最新の情報をご確認ください。
ひとりで抱えないでください
初回のご相談は無料です。中国語でお話しいただけます。
「何を言われているのか分からない」という段階で構いません。
24時間受け付けています。3営業日以内にご返信します。

