遺産分割と相続トラブル|4つの分け方、特別受益と寄与分、調停・審判の進み方

遺産分割・相続トラブル
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遺産分割・相続トラブル

もめるのは、
財産が多い家ではありません。

家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割の争いは、その大半が遺産5,000万円以下の家庭です。 財産が自宅一軒しかないから、分けようがなくてもめる。 お金の問題に見えて、実は長年の感情が出口を探しているだけ、ということもよくあります。 分け方の種類と、こじれたときの進み方を整理しました。

こんな兆しが出ていませんか

  • 財産が自宅しかなく、分けようがない
  • 同居していた兄弟が通帳を見せてくれない
  • 「介護したのだから多くもらう」と言われた
  • 誰かが生前に多額の援助を受けていた
  • 再婚した配偶者と、前の子との間で話が進まない
  • 連絡しても返事が返ってこない
  • 「実印は押さない」と言われた
  • 相続人が何十人にも増えてしまっている

早いほど、選べる手段が多く残っています。

遺産分割は、全員の合意が必要です

多数決ではありません。相続人が10人いれば、10人全員が同意しなければ成立しません。ここが、話が進まなくなる根本の理由です。

一人でも欠けた協議は、無効です

連絡が取れないから、反対しているから、といって外して進めることはできません。あとから相続人が現れた場合も同じで、その方を含めて改めて協議をやり直すことになります。

逆にいえば、全員が合意すれば、法定相続分と違う分け方をしても構いません。「長男が全部」でも「配偶者が全部」でも、全員が納得していれば有効です。

期限はありませんが、放置すると悪化します

遺産分割そのものに期限はありません。しかし、時間が経つほど相続人が亡くなり、その方の相続人が加わって、関係者がねずみ算式に増えていきます。三代放置すると、面識のない親族が数十人という状態になります。

さらに2023年4月から、相続開始から10年を過ぎると、特別受益や寄与分を主張できなくなりました。「兄は生前に家を建ててもらった」「私は介護をした」といった事情を考慮してもらえず、法定相続分どおりに分けることになります。主張したいことがある方は、10年を意識してください。

分け方は、4つあります

現金は割り切れますが、不動産は割り切れません。どう分けるかの型を知っておくと、話し合いが具体的になります。

現物分割

「自宅は長男、預金は次男、株式は長女」というように、財産をそのままの形で分ける方法です。いちばん分かりやすく、手続きも簡単ですが、財産の価値がきれいに揃うことは稀で、不公平が出やすくなります。

代償分割

一人が不動産などを取得し、他の相続人にはその代わりに金銭を払う方法です。自宅を残したい場合によく使われます。取得する人に支払い能力が必要で、資金がなければ成り立ちません。生命保険を代償金の原資にする方法もあります。

換価分割

不動産を売却し、その代金を分ける方法です。金額がはっきりするので公平ですが、売れるまで時間がかかり、譲渡所得税や仲介手数料もかかります。誰も住まない実家がある場合の、現実的な選択肢です。

共有分割

不動産を相続人の共有名義にする方法です。その場は収まりますが、売るにも貸すにも全員の同意が必要になり、次の世代でさらに共有者が増えます。後回しにしているだけとお考えください。おすすめできません。

配偶者居住権という選択肢もあります。
2020年に始まった制度で、配偶者が自宅に住み続ける権利だけを取得し、所有権は子が取得する、という分け方ができます。配偶者は住む場所を確保しながら、預貯金も多めに受け取れます。「家を出るか、預金を諦めるか」という二択を避けられる方法です。登記が必要ですので、司法書士にご相談ください。

もめる原因は、だいたい決まっています

相談の場でうかがう話は、驚くほど似通っています。ご自身の状況が当てはまるか、確かめてみてください。

財産が自宅しかない

最も多いパターンです。3,000万円の家が1軒だけで、相続人が3人。誰かが住み続けるなら、他の2人には何も渡りません。代償金を払えなければ、売るしかなくなります。

生前の援助(特別受益)

「兄は家の頭金を出してもらった」「妹は留学費用を出してもらった」。生前の贈与が特別受益にあたれば、その分を相続財産に持ち戻して計算します。ただし、何が特別受益かの線引きは難しく、争いの火種になります。

介護の貢献(寄与分)

「10年間、面倒を見たのは自分だ」。心情としては当然ですが、寄与分が認められるハードルは高く、通常の親族としての扶養の範囲では認められません。金額も、想像より小さくなることがほとんどです。

使い込みの疑い

同居していた相続人が、生前に預金を引き出していた。認知症だった時期の出金であれば、なおさら疑われます。取引履歴を10年分取り寄せて確認するところから始まります。

再婚と前妻の子

後妻と前妻の子は、法律上は同じ立場の相続人ですが、面識がないことも珍しくありません。連絡を取ること自体が心理的に難しく、そのまま何年も止まってしまいます。

感情の問題

「あのとき助けてくれなかった」「親に可愛がられていた」。金額の問題ではなく、長年の思いが遺産分割という形で噴き出すことがあります。この場合、法律の説明だけでは動きません。

特別受益と寄与分

この2つが、話し合いを長引かせる二大要因です。制度の中身を、あらかじめ知っておいてください。

特別受益 ─ 生前にもらった分を、計算に入れる

結婚資金、住宅購入の援助、独立開業の資金など、特定の相続人だけが受けた大きな贈与は、遺産の前渡しとみなして計算に入れます。これを「持ち戻し」といいます。

ただし、通常の学費や生活費の援助、扶養の範囲の支出は、特別受益にはあたらないとされています。また、亡くなった方が「持ち戻しをしなくてよい」という意思を示していた場合は、計算に入れません。婚姻期間20年以上の夫婦の間で自宅を贈与した場合は、持ち戻しをしない意思があったものと推定されます。

寄与分 ─ 財産の維持・増加への貢献を評価する

家業を無報酬で手伝った、療養看護に努めて介護費用の支出を抑えた、といった貢献がある場合、その分を上乗せできます。

認められるには、通常期待される範囲を超えた特別の貢献であること、その結果として財産が維持または増加したこと、無償またはそれに近いことが必要です。「同居して身の回りの世話をしていた」だけでは、認められないことがほとんどです。

なお、相続人ではない親族(長男の妻など)が介護をした場合、特別寄与料として金銭を請求できる制度が2019年に設けられました。ただし、相続開始と相続人を知ってから6か月、または相続開始から1年という短い期限があります。

10年を過ぎると、どちらも主張できません

2023年4月から、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、特別受益と寄与分を主張できなくなりました。10年を過ぎると、機械的に法定相続分で分けることになります。

長年放置されている相続がある方は、期限にご注意ください。10年が近い場合、家庭裁判所に遺産分割の請求をしておけば、権利は保たれます。

話し合いを、こじらせない進め方

順番と伝え方で、結果はずいぶん変わります。感情の対立に入る前に、事実を共有しておくことが大切です。

  1. STEP1

    相続人と財産を、先に確定する

    誰が相続人で、何がいくらあるのか。ここが曖昧なまま話し合いを始めると、「隠しているのではないか」という疑いが生まれます。戸籍と残高証明書という、動かしようのない資料をそろえてから始めてください。

  2. STEP2

    財産目録を作り、全員に同じものを配る

    一覧表を全員が共有していることが、信頼の土台になります。不動産の評価額は、固定資産評価額・路線価・実勢価格のどれで見るかで大きく変わりますので、どの基準を使ったかも明記してください。

  3. STEP3

    いきなり分け方を提案しない

    最初に案を出すと、それが「押しつけ」と受け取られます。まずは全員の希望を聞く場にしてください。「自宅は残したい」「現金がほしい」「早く終わらせたい」。優先順位が分かれば、組み合わせで解決できることがあります。

  4. STEP4

    電話ではなく、書面でやり取りする

    口頭の話し合いは「言った・言わない」になります。提案と回答を書面(メールでも構いません)に残すと、記録が積み上がり、感情的なやり取りも減ります。遠方の方や、会うのが気まずい相手には特に有効です。

  5. STEP5

    合意できたら、すぐに書面にする

    「だいたい決まった」で止めると、時間が経つうちに気が変わります。遺産分割協議書を作り、全員の署名と実印、印鑑登録証明書をそろえてください。人数分を作成し、各自が保管します。

  6. STEP6

    まとまらないときは、家庭裁判所へ

    何度話しても平行線であれば、遺産分割調停を申し立てます。第三者が間に入ることで、直接顔を合わせずに話を進められます。この段階からは、弁護士に依頼することをおすすめします。

調停と審判は、どう違うのか

家庭裁判所での手続きは、まず調停から始まります。調停でまとまらなければ、自動的に審判に移ります。

くらべる点
調停
審判
中身
調停委員が間に入って行う話し合い
裁判官が判断して結論を出す
相手と顔を合わせるか
合わせません。別々の待合室で、交互に呼ばれます
主張は書面が中心です
結論
全員が納得すれば成立。一人でも反対なら不成立
納得しなくても、裁判官の判断で決まります
申立先
相手方の住所地の家庭裁判所(合意で決めることも可)
調停から自動的に移ります
費用
収入印紙1,200円と郵便切手(弁護士に依頼すれば別途)
追加の申立費用はかかりません
期間の目安
1か月〜1か月半に1回のペースで、1年前後
さらに半年〜1年

審判では、柔軟な分け方が難しくなります。
調停であれば「この家は長男が取り、代わりに次男へ200万円」といった細かい調整ができます。しかし審判になると、法定相続分を基準とした形式的な判断になりやすく、不動産が共有とされたり、競売による換価を命じられたりすることがあります。話し合いで決着させたほうが、双方にとって良い結果になることが多いのです。

相続税の申告期限との関係にご注意ください。
調停が長引いて10か月を過ぎても、相続税の申告期限は延びません。未分割のまま法定相続分で申告し、分割が決まってから修正することになります。この場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えません(「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、後日適用を受けられます)。

預金の使い込みが疑われるとき

相談の中でも特に多く、そして特にこじれやすい問題です。

まず、取引履歴を取り寄せる

相続人であれば、単独で過去の取引履歴を請求できます。10年分を取り、いつ、いくらが引き出されたかを一覧にします。他の相続人の同意は不要です。

引き出しの理由を確認する

介護費用、施設利用料、医療費、生活費。正当な支出であれば問題ありません。領収書や請求書と突き合わせて、説明のつかない出金がどれだけあるかを整理します。

亡くなる前と後で、扱いが違います

生前の引き出しは、原則として遺産分割の対象外で、不当利得返還請求などの別の手続きになります。一方、亡くなった後に引き出された分は、相続人全員の同意があれば遺産分割の対象に含められます(2019年の法改正で明確になりました)。

感情的に責める前に

介護をしていた相続人が、生活費として管理していたケースがほとんどです。最初から「使い込み」と決めつけると、話し合いそのものが止まります。まず資料を集め、事実を確認してからにしてください。

もめている場合は、弁護士の分野です

ここは、はっきりお伝えしておく必要があります。

行政書士・司法書士・税理士は、代理交渉ができません

相続人の間に争いがある場合、依頼者の代理人として相手方と交渉できるのは弁護士だけです。行政書士がこれを行えば、弁護士法に違反します。「話をまとめてほしい」というご依頼は、お受けできません。

争いのある案件で行政書士ができるのは、相続人の調査、財産の調査、すでに全員の合意ができている内容を書面にすること、この範囲までです。

こうなったら、弁護士へ

・相手方が弁護士を立ててきた
・何度連絡しても返事がない、話し合いに応じない
・「実印は絶対に押さない」と言われている
・使い込みや財産隠しの疑いがある
・調停や審判を申し立てることになった
・相手方から内容証明郵便が届いた

早い段階で弁護士に相談したほうが、結果的に費用も時間も抑えられることが多いです。初回相談を無料としている法律事務所もありますし、資力に応じて法テラス(日本司法支援センター)の制度を使える場合もあります。

もめないための、生前の備え

争いのほとんどは、備えがあれば起きていません。財産の多い少ないは関係ありません。

遺言書を作る

最も効果のある備えです。誰に何を渡すかを指定しておけば、遺産分割協議そのものが不要になります。公正証書で作成し、遺言執行者を指定しておけば、相続人が集まらなくても手続きが進みます。

理由を書き添える

遺言書の末尾に「付言事項」として、なぜこの分け方にしたのかを自分の言葉で書けます。法的な効力はありませんが、残された家族の納得感がまるで違います。ここを書かずに亡くなると、憶測が争いを生みます。

遺留分に配慮する

配偶者・子・父母には、遺言でも奪えない最低限の取り分があります。誰かの取り分をゼロにする遺言は、かえって争いを呼びます。遺留分を意識した配分にしておくか、代償金の原資を保険で用意しておいてください。

不動産を、分けられる形にしておく

自宅しかない場合、生前に売却して現金にする、生命保険で代償金の原資を作る、共有名義を解消しておく。元気なうちにしかできない整理です。

生前贈与は、記録を残す

誰にいくら渡したかを書き残しておくと、特別受益をめぐる争いを防げます。「持ち戻しをしなくてよい」という意思も、遺言書に書いておけば有効です。

財産目録を作っておく

どこに何があるか分からないことが、疑心暗鬼のもとになります。一覧を作って家族に伝えておくだけで、相続人が財産を探す手間も、隠しているという疑いも消えます。

よくあるご質問

質問をクリック(タップ)すると、答えが開きます。

一人が実印を押してくれません。どうすればよいですか。
押印を強制する方法はありません。何度話しても応じない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。調停でも成立しなければ審判に移り、裁判官が結論を出します。まず、なぜ押さないのかを確認してください。金額への不満なのか、説明が足りないのか、感情的な理由なのかで、取るべき手段が変わります。
遺産分割に期限はありますか。
分割そのものに期限はありません。ただし、相続開始から10年を過ぎると、特別受益と寄与分を主張できなくなります(2023年4月から)。また、相続税の申告は10か月、相続登記は3年という期限がありますので、実際には早く進める必要があります。
連絡先が分からない相続人がいます。
戸籍の附票を取り寄せると、住民票上の住所が分かります。そこへ手紙を出し、反応がなければ調停の申立てを検討します。住所そのものが不明な場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるか、7年以上行方不明であれば失踪宣告という手続きがあります。
調停は、必ず出席しなければいけませんか。
出席の義務はありますが、欠席しても罰則はありません。ただし欠席が続くと調停は不成立となり、審判に移って、こちらの言い分を聞かれないまま結論が出ることになります。遠方の場合は、電話やウェブ会議での参加が認められることもあります。
弁護士に頼むと、費用はどのくらいですか。
事務所によって異なりますが、着手金と、得られた利益に応じた報酬金という形が一般的です。無料相談を行っている事務所も多いので、まず複数に相談して見積りを比べてください。収入や資産が一定額以下であれば、法テラスの立替制度を利用できる場合があります。
亡くなった方が外国籍でも、日本の裁判所を使えますか。
日本に財産があり、相続人が日本に住んでいるなどの事情があれば、日本の家庭裁判所で調停・審判を行える場合があります。ただし、どの国の法律で判断するかは別の問題です。中国籍の方であれば、原則として中国の相続法が基準になり、配偶者・子・父母が同順位で、遺留分の制度がないなど、日本とは扱いが大きく異なります。国際的な要素がある場合は、必ず専門家にご確認ください。
いったん成立した遺産分割を、やり直せますか。
相続人全員が合意すれば、やり直すことは可能です。ただし、税務上は新たな贈与や譲渡として扱われ、贈与税や譲渡所得税がかかることがあります。だまされた、脅されたといった事情がある場合は、取り消しを主張できることもあります。安易にやり直すのではなく、まず専門家にご相談ください。

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このページについて

このページは、遺産分割の方法と、相続人の間で意見が分かれた場合の進み方について、一般的な制度をご説明したものです。

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記載している制度・金額の内容は2026年7月時点のものです。家庭裁判所の統計や運用は変わることがありますので、実際の手続きの際は最新の情報をご確認ください。