経営者・個人事業主の相続
事業は、
四十九日を待ってくれません。
建設業の許可は死亡から30日、運送業と産廃業は60日。 この期限を過ぎると、許可は失効し、同じ事業を続けるには一から取り直すことになります。 従業員の給与も、取引先への納品も、待ったなしで動き続けます。 何を、いつまでに、どの順番で。事業のある相続に特有の話をまとめました。
こんな状態になっていませんか
- 父の許可で工事を請けていたが、どうなるのか
- 従業員に何と説明すればよいか分からない
- 会社の口座が凍結されて給与が払えない
- 取引先から契約の継続を聞かれている
- 事業用と個人の財産が混ざっている
- 会社の借入に亡くなった父が保証人だった
- 株式が兄弟に分かれてしまいそうだ
- 誰も継ぐ人がいないが、たたみ方も分からない
最初にやるべきは、期限のある許認可の確認です。
事業には、短い期限があります
一般的な相続の期限(3か月・10か月)とは別に、事業にはもっと短い期限が並びます。葬儀の最中に動かなければならないものもあります。
宅建業の廃業届
産廃業の承継届出
相続人の開業届
青色申告の承認申請
※ 起算日は「死亡の日」「死亡を知った日」など手続きごとに異なります。青色申告の承認申請は、亡くなった時期によって期限が変わります。必ず所管の窓口でご確認ください。
個人事業と法人では、まったく別の話です
同じ「経営者の相続」でも、個人事業主と会社では、起きることが根本的に違います。まずご自身がどちらかを確認してください。
法人でも、代表者が亡くなれば会社は動かなくなります。
取締役が代表者一人だけの会社では、契約も支払いも決裁できなくなります。株主総会を開いて後任を選ぶ必要がありますが、その株主総会を招集するのも取締役です。定款や登記を確認し、早急に体制を整えてください。銀行取引も、代表者の変更登記が済むまで止まることがあります。
許認可は、承継できるものとできないものがあります
個人事業主の場合です。承継できる許可でも、期限内に手続きをしなければ失効します。承継できない許可は、相続人が新規に取り直すことになります。
認可を受けて地位を承継
認可を受けて地位を承継
届出により承継
届出により承継
承認を受けて承継
申告により承継
相続人が新規に免許を取得
相続人が新規に許可を取得
承継できる許可でも、要件を満たしていなければ認められません。
建設業であれば、経営業務の管理責任者と専任技術者の要件を、相続人が満たしている必要があります。亡くなった方がその両方を兼ねていた場合、要件を満たす人がいなくなり、承継が認められないことがあります。要件を満たす従業員がいれば、その方を配置して申請する方法もあります。
上の表は代表的なものだけです。
許認可の種類は数千あり、根拠となる法律ごとに扱いが違います。介護事業、警備業、電気工事業、解体工事業、自動車整備業など、それぞれに個別の規定があります。お手元の許可証に書かれている根拠法令を確認し、所管の窓口に「相続による承継の手続きはありますか」と直接お尋ねください。
続けるか、たたむか、譲るか
許認可の期限が迫るなかで、まずこの方針を決めなければなりません。迷っている時間があまりないのが、事業のある相続の難しさです。
やることの順番
通常の相続手続きと並行して進めます。最初の1か月が勝負です。
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STEP1
許可証を探し、期限を確認する
事務所の壁に掲げてある標識、ファイル、金庫を確認してください。許可証には根拠となる法律と有効期限が書かれています。まずこれを見つけないと、何日以内に何をすべきかが分かりません。見つからない場合は、所管の役所に問い合わせれば確認できます。
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STEP2
従業員と取引先に連絡する
不安が広がると、人も仕事も離れていきます。「事業を続けるかどうかは検討中だが、当面はこれまでどおり進める」という一報だけでも、早く出してください。従業員の給与の支払い方法も、口座凍結を前提に確認が必要です。
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STEP3
方針を決める(続ける/たたむ/譲る)
相続人の間で話し合います。全員の合意が取れなくても、許可の承継申請だけは期限内に出しておくという判断もあります。事業を存続させておけば、あとから選び直せます。
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STEP4
許認可の承継手続きをする
建設業なら30日以内、運送業・産廃業なら60日以内。申請には、相続人が要件を満たしていることを示す書類、他の相続人の同意書などが必要です。書類をそろえる時間を考えると、実質2〜3週間しかありません。
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STEP5
税務署への届出
個人事業の廃業届と、事業を引き継ぐ相続人の開業届を、1か月以内に提出します。青色申告を続けたい場合は、承認申請の期限にご注意ください。亡くなった時期によって、4か月以内・その年の12月31日・翌年2月15日と変わります。
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STEP6
準確定申告(4か月以内)
亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得を申告します。事業所得がある方は、ほぼ確実に対象です。棚卸資産や減価償却の処理があるため、税理士に依頼するのが一般的です。
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STEP7
遺産分割で、事業用資産をまとめる
店舗、機械、車両、在庫、売掛金、事業用口座。これらが相続人にばらばらに分かれると、事業が成り立ちません。事業を継ぐ人に集める代わりに、他の相続人へは別の財産や代償金で調整するのが一般的です。
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STEP8
各種の名義変更
事業用口座、リース契約、店舗の賃貸借契約、電話・インターネット、車両の車検証、社会保険・労働保険の事業主変更。取引先との基本契約書も、名義を改めておいてください。
見落とされがちな「経営者保証」
法人の相続で、最も大きな落とし穴です。会社の借金は会社のものですが、保証人としての義務は相続されます。
会社の借入に、個人保証をしていませんでしたか
中小企業が金融機関から融資を受ける際、代表者が連帯保証人になっているのが一般的です。この保証債務は、相続の対象になります。会社の財務がどれほど健全でも、保証の金額そのものが相続財産のマイナスとして計上されます。
会社を継がない相続人にも、法定相続分に応じて保証債務が引き継がれます。「会社は兄が継ぐから、自分には関係ない」とはいきません。
確認する方法
金融機関に、亡くなった方が保証人になっている契約がないかを照会してください。金銭消費貸借契約書、保証契約書、根保証契約書の控えが会社や自宅に残っていないかも確認します。信用情報機関への開示請求では、保証債務は表示されないことが多いため、書類と金融機関への確認が中心になります。
解除できる場合があります
「経営者保証に関するガイドライン」により、一定の要件を満たせば、後継者へ保証を引き継がない、あるいは保証そのものを外す交渉ができます。会社と個人の資産が明確に分かれていること、財務内容が健全であること、金融機関への情報開示が適切であることが主な要件です。相続を機に、金融機関へ相談してみる価値があります。
法人の場合、怖いのは株式の分散です
遺言がなければ、株式は相続人全員の共有になります。この状態が、会社の意思決定を止めます。
共有状態では、議決権が使えません
遺産分割が終わるまで、株式は相続人全員の準共有です。議決権を行使するには、相続人の中から権利行使者を1人決めて会社に通知する必要があります。決められない間は、株主総会が開けず、役員も選べません。
分散すると、取り戻せません
相続で株式が兄弟に分かれると、後継者の持分が過半数を割ることがあります。買い取ろうにも、相手が応じなければどうにもなりません。三代目、四代目になると株主が数十人に増え、誰がどこにいるかも分からなくなります。
定款を確認してください
「相続人等に対する売渡請求」の定めが定款にあれば、会社が相続人から株式を買い取ることができます。ただし、この請求は相続を知った日から1年以内という期限があり、また買取資金が必要です。定めがない場合、あとから入れることもできます。
役員変更登記を忘れずに
代表取締役が亡くなった場合、死亡による退任の登記と、後任の就任登記が必要です。放置すると、代表者不在の会社として扱われ、契約も融資も進みません。登記は司法書士の業務です。
生前にできること
事業のある相続は、亡くなってから対応できることが限られます。ここに挙げたことは、すべて元気なうちにしかできません。
遺言書を作る
事業のある方には、必須といってよい備えです。事業用資産と株式を後継者に集め、他の相続人には別の財産を渡す。この配分を遺言で指定しておけば、遺産分割協議を待たずに事業を引き継げます。公正証書で作成し、遺言執行者を指定しておくと確実です。
個人と事業の財産を分ける
事業用の口座と個人の口座、事業用の不動産と自宅。これらが混ざっていると、相続のときに切り分けができません。法人であれば、会社への貸付金や、会社が使っている個人名義の不動産も整理の対象です。
許認可の要件を、後継者にも持たせる
経営業務の管理責任者や専任技術者の要件を、後継者や従業員が満たしているか確認してください。資格の取得や実務経験の積み上げには年単位の時間がかかります。要件を満たす人が社内にいれば、承継の申請が通ります。
株式を集約しておく
すでに分散している株式を買い取る、後継者へ生前に贈与する、定款に売渡請求の定めを入れる。事業承継税制を使えば、贈与税・相続税の納税を猶予できる場合があります(適用には期限と要件があります)。
納税資金を用意する
非上場株式や事業用不動産は、現金化しにくいのに評価額は高くなりがちです。相続税を払うために事業用資産を売る、という事態を避けるため、生命保険で納税資金を準備しておく方法があります。
引き継ぎのノートを残す
取引先の担当者名と条件、金融機関との経緯、許認可の更新時期、パスワード、鍵の場所。頭の中にしかない情報が、いちばん困ります。後継者が決まっていなくても、書き出しておく価値があります。
よくあるご質問
質問をクリック(タップ)すると、答えが開きます。
建設業の許可の期限が、もう過ぎてしまいました。
事業用の口座が凍結され、給与が払えません。
従業員は、そのまま働いてもらえますか。
事業を継ぐ人がいません。どうすればよいですか。
会社の借金は、相続人が払うのですか。
外国籍の経営者が亡くなった場合はどうなりますか。
許可を取り直す場合、実績はゼロからですか。
あわせてお読みください
事業以外の部分は、通常の相続手続きと同じ流れになります。
このページについて
このページは、経営者・個人事業主が亡くなった場合の相続手続きについて、一般的な制度と流れをご説明したものです。
許認可の承継可否と期限は、業種ごとの法律で個別に定められています。掲載しているのは代表的なものだけですので、実際の手続きにあたっては、お手元の許可証に記載された所管の窓口へ必ずご確認ください。
相続税や事業承継税制の判断は税理士、役員変更登記は司法書士、相続人の間で争いがある場合は弁護士の分野です。制度・期限の内容は2026年7月時点のものです。

